フワちゃんブームとその終焉

2019年4月23日放送の『うちのガヤがすみません!』(日本テレビ系)で、指原莉乃に注目の存在として紹介されたのが、YouTuber芸人・フワちゃんの初めてのテレビ出演だったと記憶している。同番組は売り出し中の芸人が多数出演する番組で、鬼越トマホークやみなみかわ、EXITなんかもここから売れていった。フワちゃんもその一人で、その後同番組には何度も呼ばれるように。常に異常なハイテンションで、楽屋挨拶だろうが本番中だろうが、先輩だろうが大御所だろうが、そんなのお構いなしに、スマホで動画を撮りまくり、タメ口で絡む自由奔放なキャラが定着していく。

8月には『ヒルナンデス』(日本テレビ系)にフワちゃんのTシャツを着ている出演者が見られたり、10月28日放送の『人生が変わる1分間の深イイ話』(日本テレビ系)では密着取材を受けたりと、この辺りでお茶の間にも知名度が広がっていく。そんな中、決定的なブレイクのきっかけとなったのが、11月10日放送の『行列のできる相談所』(日本テレビ系)。この日のゲストは松本人志だったが、フワちゃんは松本にも臆さず、松ちゃん呼びで抱きついたり、無理やり自撮りしておもしろ加工をしたり、しまいには自身の衣装と同じスポブラを着けさせたりとやりたい放題。東野幸治は後にこのときの彼女の度胸を褒めていたが、世間の反応は冷たかった。テレビのお約束を無視するイタいYouTuberが出てきたぞ…という認識がほとんどで完全にイロモノ扱い。「不快」や「嫌い」の声も多かった。

2019年11月10日放送の『行列のできる相談所』(日本テレビ系)より。松本人志とフワちゃんのツーショット。

上記の番組を見て分かる通り、この頃のフワちゃんのテレビ出演は日本テレビが中心で、DAIGOや佐藤栞里などと同様に、日テレが売り出したいタレントではないかと訝しんでいた。だが、2019年の末~2020年にかけて、コロナ禍によるタレントの低コスト化やお笑い第7世代ブームの流れにも乗る形で、怒涛の勢いでブレイクを果たし、日テレに限らず数多くの番組に出演していく。そんなブレイク時の彼女の中でも、特に印象的だった場面を以下に挙げよう。

2020年7月10日には『徹子の部屋』(テレビ朝日系)に出演。数多の芸人を苦しめてきた徹子と大御所にもグイグイ迫るフワちゃんの直接対決ということで、予告の時点から期待度は高かった。期待通りフワちゃんは果敢に絡みに行くのだが、徹子はことごとく拒絶。それでもめげず、ラスト一分では「帰りたくない!」と叫び、椅子ごと揺れてエンディング曲をハミング。これを徹子が微笑みながら見守るシュールな光景で番組は終わった。Twitterでは、このシーンの切り抜きが「フワちゃんを電気椅子で拷問する徹子」などと大喜利されてバズっていたが、アンチ的な意見はほとんど見られず、視聴者の多くは面白がっていた。

7月31日には『中居正広の金曜日のスマイルたちへ』(TBS系)に出演。芸能界入りからYouTuberになったきっかけまで、自身の経歴を振り返った。SF世紀 宇宙の子として活動していた頃の相方・芝山大輔も出演し、解散に至るまでの話なども。彼とは19年12月20日放送の『今夜解禁!ザ・因縁』(TBS系)でも共演していたが、こちらではより深く掘り下げていた。

8月13日には東京都のYouTubeチャンネルで小池百合子と対談。当時流行していた新型コロナウイルスの感染予防を呼びかけた。これについては、フワちゃんを政治利用するなという声もあったが、この頃すでに彼女を受け入れる=若者を分かっているというムードがあったので、そこに呑まれた小池百合子が利用したつもりでいて逆にフワちゃんの広告塔に使われているようにも感じた。

フワちゃん側の動画。東京都の動画は非公開に。

8月23日放送の『24時間テレビ』(日本テレビ系)では、生放送の大喜利企画中に笑い過ぎて失禁。裏も表もなくやりたい放題やるのは、あくまでキャラで、本当は普通の人なんでしょとの認識が広がっていたが、この事件で本当にヤバいやつなのではとの声も上がり始めた。

11月21日放送の『まつもtoなかい』(フジテレビ系)ではローラと対談。新旧タメ口キャラとしてのマッチングだったと思われるが、終始ローラは愛想笑い。フワちゃんが空気を呼んで声を張り上げるも、結局会話は噛み合わずに終了を迎えた。放送後の反応としては、ローラが相手のボケに無反応で塩対応過ぎるという声が多かったが、彼女のフランクさは無理に作っていない自然体のもので、対するフワちゃんはキャラを演じているだけなのが浮き彫りとなった。

12月20日にはYouTubeでHIKAKINとコラボ。フワちゃんの過剰なイジりにHIKAKINがブチギレるというドッキリで、彼女の素の姿を見せるようなものになっていた。

お笑いビッグ3、ダウンタウン、黒柳徹子、小池百合子、HIKAKINと各界の大御所を振り回し、第7世代とも絡みつつ、ちょっとした放送事故も起こす。さらには自身の過去の掘り下げも終了し、だいたいこの1~2年で彼女のブームは一周した。

それでもまだ2021年はブレイクが続いており、3月4日放送の『千鳥のクセがスゴいネタGP』(フジテレビ系)では、スリムクラブが思ったことを口に出すと批判される世の中を風刺するコントの中で、「誰もフワちゃんを注意できなくなっている」とボケるぐらいには、彼女の勢いは維持されていた。

2021年3月4日放送の『千鳥のクセがスゴいネタGP』(フジテレビ系)より。コント中、フワちゃんをいじるスリムクラブ。元々は2020年のM-1予選で披露されたネタだった。

しかし、2022年以降は奇天烈なキャラクターも徐々になりを潜め、売りだったタメ口も控えめに。さん付けの場面も見られるようになっていく。それに伴い『さしフワご相談ナイト』(フジテレビ系)で実は色々考えている一面を見せたり、行列でプロレスに挑戦したりと、色んな顔を見せていくようになるのだが、2023年にはテレビから彼女の存在感が次第に薄れていく。

そのきっかけとなったのが、あのちゃんのブレイクだ。独特の喋り方や偏食などに象徴される不思議ちゃんなキャラクターと思ったことをはっきりと言う性格が受け、各局バラエティに引っ張りだことなった彼女は、年末の『紅白歌合戦』(NHK)にも出場し、名実ともに2023年の顔となる。

あのちゃんとフワちゃん、性質でいえば陰と陽で、彼女らのキャラクターは直接被るものではない。だだ、目上にもズバズバ言うイマドキの若者という大枠の中で、ダウナーな雰囲気と発言の辛辣さのギャップでウケを取るあのちゃんにフワちゃんは出番を奪われていく。

さらに、そこへ追い討ちをかけるように登場してきたのが村重杏奈だ。彼女はあのちゃん程の脅威ではないが、松本人志に松ちゃん~と絡みに行ったり、木村拓哉とYouTube上でフランクに会話するなど、底抜けに明るい性格と異常なコミュ力の高さは本当の意味でフワちゃんと競合するものだった。実際、初期にはフワちゃんが準レギュラーとして出演していた『トークィーンズ』(フジテレビ系)の席は、村重に奪われるようになる。

空気を読まないキャラが落ち着いてきた頃に、その穴を埋めるかのごとく、あのちゃんや村重が台頭し、タレントとして苦境に立たされてきたところで、24年3月17日、突然の海外移住を発表。留学については、コロナがなければ元々予定していたと各所で語っていたし、今後の展望としても海外活動をよく挙げていたので、この決断自体に不思議なところはなかった。ただ、タレントとしてはブームが過ぎ去ったタイミングだったため、世間の反応は冷ややかで、海外に逃げたとする声も多かった。それでも自身のラジオや行列などのレギュラー番組には引き続き出演し、日本での芸能活動も継続していたのだが、8月4日事態は急変。

Xにて、やす子の「やす子オリンピック 生きてるだけで偉いので 皆優勝でーす」というポストに対し、フワちゃんが「おまえは偉くないので、死んでくださーい 予選敗退でーす」と引用で返信したのだ。この投稿はすぐさま削除されたが、スクリーンショットが拡散され炎上。やす子はこれに「とっても悲しい」と反応し、フワちゃんは即座に謝罪をしたものの時すでに遅し。ラジオは活動休止からの終了、GooglePixelのCMも契約を切られ、ついには芸能活動休止に追い込まれた。

2024年8月7日放送の『ミヤネ屋』(読売テレビ)より。やす子に不適切投稿をし、謝罪するフワちゃん。

徐々に人気がなくなり、ひっそりと消えかかっていたところで、大バッシングを受けて退場という道化としてはこれ以上ない最期を迎えたフワちゃんだが、今後の彼女はどうなるのか。8月11日放送の『ワイドナショー』(フジテレビ系)で、東野幸治は「何となくタレントの嗅覚でいうと、あれ、これ出てこないんちゃうの?って勝手に思ってるんですよ」と語っていたが、ラジオでの有田哲平とのトークを聞く限り、なかなかの分析力を持っているし、キャラだろうがあの度胸は本物だろうから、何らかの形で戻って来そうな気はするが……果たして。

タイトルとURLをコピーしました